悲しくなる話

 犬と暮らしていると、嬉しい事や、嫌な事もある。嬉しい事の方が多いのも事実なのだが、思い出すだけでも「今までで一番嫌な事」と言うのも、実際にあった事だ。

 犬を飼い始めて2歳と半年程を過ぎた頃、近所に住んでいる仲良しの犬と交配させた。そして母犬の3歳の誕生日、ちょうどその日の朝、黒毛が3匹と赤毛が3匹の6匹の子犬が生まれた。その後、丸々2ヶ月間を育児をして6匹とも無事に育ってくれた。そして6匹が6匹とも飼いたいと言ってくれる人が現れて、それぞれが1週間のうちに次々と新しい家族の元に行った。そこまでは良かったんだ。

 悔しくも悲しい出来事は、それから6ヶ月後の突然の電話で始まった。偶然か必然かは判らない。ちょうど産後の生理が終わり、母犬の体調が整った所で避妊手術を受けさせた2日目のことだ。麻酔の影響も無くなり、おそらくは体の痛みも和らいで食欲が戻り、普通に散歩にも出かける事が出来るようになっていた。
 電話は、飼い主である自分に赤ちゃんが出来て、もうすぐ出産するから、以前にもらった犬を返したいという話だった。そんな事は、犬を引き取りたいと言う前から判っていた事では無いのかと言いたい所をぐっと飲み込んで、半年過ぎた子犬を引き取った。幸い、家の中で良くしてもらっていたのだろう、健康で素直、しかし、躾は全くされていなかったから食事の前に「おすわり」も出来ないお転婆娘に育っていた。しかし、話はそれだけでは済まなかったのだ。

 そこの家では、子犬を引き取る以前から3歳になるビーグルを飼っていたそうだ。子犬を引き取って2週間過ぎた頃に来た次の電話では「その犬も手放したいから、引き取ってくれないか?」と言うではないか。一番かわいい盛りを過ぎた8ヶ月過ぎた子犬を引き取る事は了承したが、その話とは別である。いくらなんでも自分が3匹も犬を飼う事は無理だし、子犬とは親子だから問題は無かったが、そこに他人(もとい他犬)が来たとして、避妊手術を済ませた後で精神的にも心細い様な時期に、とても同居出来るとは思えない。さすがに丁重にお断りをした。そうしたら「保健所に依頼しますから良いです。」と言われて、その電話は切れた。

 自分の子供と犬、どちらが大切かを問われたら、もちろん自分の子供には違いない。しかし、だからといって一緒に住めないからと、それまで飼っていた犬を追い出せる、その神経が僕には理解出来なかった。保健所に依頼しますと言った神経には、今でも理解出来ないけれど。部屋飼いしていた犬を、赤子と一緒に出来ないなら、外犬として飼い続ける選択肢は無かったのだろうか。

 ビーグルなら元々猟犬でもある。ある日を境に外飼いにしても、なんら問題は無かった筈だと思うのだが。自分は、そこまで口出せる間柄でもないし、8ヶ月の子犬を引き取るだけで精一杯だったので、その後にフォローを入れる事まではしなかったが、飼い主を選べない犬は、本当に不憫だと感じた電話だった。そして、そのように簡単に飼い犬を処分できるような神経を持つ親元で育つ子供は、はたして「命」に対してどのようにして育つのだろうか。
 子供は親を選べない。見知らぬ、まだ生まれても居ない子供の将来を心配するだけで、他には何も出来ないのだが。どうか、その犬の命も取り込んで健やかに育ってほしいと願わずにはいられなかった。

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