育て方しだい

 飼犬の性格は、善くも悪くも飼主の育て方一つで大きく変わる。情報伝達の発達した現代ネット社会に於いても、真しやかに言われる噂の一つに「秋田犬は凶暴なので危険である」という話がある。土佐闘犬

生まれた時から凶暴な飼犬なんていない

愛犬家になろう(その3)

 
 今年に入って九州は福岡県内で、大型犬であるバーニーズ・マウンテンドッグに人が襲われて大怪我をする事故が 2件も発生している。
 国内では秋田犬や土佐犬、あるいはピットブルやロットワイラーでは割と頻繁に耳にする痛ましい事故ではあるが、比較的温厚と言われるバーニーズ・マウンテンドッグでの咬傷事故と言うのは、僕の記憶が確かなら今年になって初めて耳にした出来事だと思う。

 バーニーズ・マウンテンドッグとは温和で優しく従順と言われている犬種だが、その原種は「山岳地での活動に耐えられる犬」と言われる通り、時には羊を守るために狼や他の外敵と戦う事もあっただろうから、ただ単に大人しいだけの犬種ではないハズである。
 ブリーディングする際にも、飼主への攻撃性は無くとも護衛犬として他者への攻撃性まで抑制はしていないから、絶対に外ではリードを外してはいけないと注意書きのある程の犬種である。

 もっとも、どんなに温和で優しい犬でも、毎朝毎晩の散歩をサボったり、どこへも遊びに連れて行かないで留守番だけや、鎖に繋がれて見世物の様な生活であれば、自身の中に有る溢れんばかりの体力を持て余しストレスを溜め込んでブチ切れもするだろう。雪山を自在に走り回れる山岳救助隊の犬でもあるセントバーナードだって、ただ優しいだけの犬じゃないから「ハイジの村での咬傷事故」も、きっと同じ理由だったんじゃなかろうか。
 それが仮に人であったとしても同様だと思う。何れにしても飼犬に責任は無い。飼犬をそのように育てた飼主、管理者に全ての責任がある。

 僕が実際に既に成犬になっていた秋田犬を引き取り「小町」という名を与えて 4年間一緒に暮らして思う事だが、秋田犬は全く凶暴じゃない。どちらかというと臆病な質で、のんびりとした穏やな性を持っていると思う。
  実際、国内においてもピットブルやロットワイラーに比べると秋田犬による咬傷事故は少ない。その代わり秋田犬による他の犬への咬傷事故は、他の犬種に比べても特筆して多いらしい。流石に闘犬として作出された犬である。

 申し添えておくが、僕が犬を飼うのは、秋田犬を引き取る 4年前から飼っていた小型犬に限りなく近い中型犬の「アリス」が初めてであり、それ以前の 40数年間、子供の頃も含め犬を飼った経験は無く、決して犬に慣れていた訳では無いのだ。
 ましてや一人の飼主の言う事しか聞かないとか、飼主の家族の言う事も聞かないとか、誰かれ構わず直ぐに牙を剥くとか、全くの大きな間違い。ただし「根も葉もない嘘」とまでは言わない。確かに新聞を賑わした凶暴な秋田犬は存在している。それは何も秋田犬に限った話では無いし言い換えれば、どんな犬でも凶暴になり得る。それを言い出したら「凶暴な人間」の方が圧倒的に多いと思うのだが…

 「闘犬」として育てられた犬は全て危険なのだろうか? 否、そんな事は無い。単に彼らは飼主の指示に従って戦っているのであって、必ずしも喧嘩が好きな犬ではないし、別に楽しいから戦っている訳でも無い。
 一度でも、りっぱな化粧回しをして大勢の観客の目の前で威風堂々としている様を見たら判ると思うのだが、彼らは確かに「闘犬」として育てられてはいるが、だからと言って観客に向かって一切凄んで見せたりはしない。決して「凶暴なだけの犬」ではないのだ。

 日本で行なわれている闘犬や闘牛には相撲やボクシングにも似た厳格なルールがあって、とある外国にある例の様な「死ぬまで戦わせる」なんて事は絶対にしない。片方が少しでも吠えたり唸ったり逃げたりすれば直ぐに勝敗は決まり、組み合っていれば直ちに引き離されるし制限時間だってある。
 もちろん何事にも「絶対」は無いから、どんなに注意していても時には事故もある。細心の注意を払って行われている相撲やボクシング、それに柔道やレスリングにだって事故は起こるのだから、きっと同じ様なものだと思う。

 人のすぐ隣で暮らしている動物、それがどの様な種類の動物であっても、割と誰に対しても温厚な性質を持つ子が圧倒的に多い。きちんとした飼主に愛され可愛がられている飼犬に限って言えば、飼主を取り巻く人社会の全てに愛情を注いでいる様にも見える。
 飼主が直ぐ側にいながら他者を攻撃する飼犬は、往々にして飼主を守ろうとして起こす行動であり、そのように「飼主以外の人は全て敵である」と考える飼犬を育てた飼主の責任である。

 悪いのは飼犬ではない。全て飼主の飼犬への接し方の問題であり「諸悪の根源は全て飼主」にあり、責任を取るべきは飼主である人間の方なのだ。
 困った事に、老若男女にかかわらず何処にでも居る彼ら「飼主」こそが、我々自称「愛犬者」にとって一番厄介で最悪とも呼ぶべき「天敵」である。

 ハッキリ言い切ってしまえば「人に対して攻撃性の有る飼犬を飼っている」のは、飼主の性格が「歪(いびつ)」なままに飼犬に接していたがゆえに「他者に対して攻撃性を持った犬に育った」と断言しちゃう。
 些細な事に目くじらを立て必要以上に神経質であったり、他者との関わりを極端に嫌う性格の持ち主には犬を飼う資格はない。無責任な結果になることは火を見るよりも明らかだからだ。

 極端な例を出せば、道ですれ違っても挨拶は返さず、目前で自分の飼犬がした糞も拾わず、何か問題があれば他人の所為にして自分は一切の責任を取らず、普段から他者へ対する配慮が欠けている様子まで指摘出来る。
 口を開けば、他者や社会への不平不満を、自分自身がこうなったことを全て環境の所為にして、ちょっとでも自分に気に入らない事があるならば、相手が少しでも弱いと見るや否や全面口撃をしかけてくる一方、敵わないと見るや本人に対しては口を噤むが、裏に回って一方的に敵と決めた人物の陰口を有る事無い事言いふらして回る、表裏のある輩でもある。(極端過ぎるだろうか?)

 正義は常に自分にあると信じて疑わないから、非は一方的に相手の側にあり「自分は犠牲者である」という言い分を持っているから、相手を社会的に抹殺するまで攻撃の手を緩める事は無い。
 彼らは、自分の主義主張にだけ正義があると一方的に言い放ち、相手の言い分には耳を貸さない。

 何年もかけて付近の住民と築いた友好関係を一瞬で破壊してしまう力を持っている上、張本人は無責任であるがゆえに全く自覚を持っていないから、直接的な被害を被るのは何時も我々自称「愛犬者」である。
 依頼の言葉は聞こうとしないし注意書きの文字は読もうともしない。「人の姿をした人ならぬ相手」と共存しなければならないのだから、我々が無力感に襲われ心が折れそうになるのも無理からぬ話だと思うだが… (^-^;)

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